2018年5月5日土曜日


牧師の日記から(160)「最近読んだ本の紹介」

中村小夜『昼も夜も彷徨え マイモニデス物語』(中公文庫)12世紀のユダヤ教のラビ・マイモニデスの生涯を、なんと日本人が小説化した。マイモニデス(ユダヤ名モーセ・ベン・マイモン)は、スペインのコルドバで産まれ、迫害を逃れて各地をさまよい、最後はエジプトでユダヤ学者として、またイスラム王サラディンの宮廷医として活躍し、医学、哲学の分野にも大きな業績を残している。ちょうど十字軍の時代で、宗教戦争の只中で、各宗教を横断して思索を深め、アラビア語で書かれたその著作の多くがラテン語に訳されて中世のヨーロッパ思想にも大きな影響を与えたとされる。私も名前だけしか知らなかったが、この小説で当時の時代背景やイスラムとユダヤ教、キリスト教の共存の可能性を追求したその自由で柔軟な思想に触れて深い感銘を受けた。特に現代の宗教・宗派対立に対して、マイモニデスの思想は再評価されるべきだろう。しかし何よりこのような小説を専門家ではない日本人が書いたことに対して心から敬意を表したい。とても読みやすく、宗教の本質とその使命を描き出している。

高橋亨『奇跡の治療薬への挑戦』(幻冬舎)牧師の勉強会・月曜会で一緒になる川島貞雄夫人から頂いた。戦後間もない時期に東風睦之というクリスチャン医学者が、旧約聖書の列王記下20章の、預言者イザヤがヒゼキヤ王の腫れ物を干しイチジクの実を患部に当てて癒やしたという記事をヒントに、イチジクの薬効を研究したという。その結果、抽出されたベンズアルデヒドという成分に顕著な抗がん作用が確認され、奇跡の治療薬として注目された。ところが実用化直前に、製薬会社の株価操作などの不祥事で中断されて今に至るも未承認とのこと。

 エイミー・ツジモト『満州天理村生琉里の記憶 天理教と731部隊』(えにし書房)もう30年ほど前、満州開拓基督教村の資料を発掘して、賀川豊彦たちによって推進されたキリスト教開拓村の実態を明らかにしたことがある。その時、他の宗教開拓団のことも調べて、天理教開拓団が存在したことは知っていた。しかしこの開拓団に隣接して日本陸軍の細菌兵器開発731部隊があったことは初めて知った。しかも団員たちの多くがその施設建設に協力し、さらに小学生たちに実験用の二十日鼠の飼育が命じられ、敗戦間際に団員の一部が731部隊の証拠隠滅作業に動員されたという。重い口を開いた団員の証言をもとに書かれた日系アメリカ人研究者のルポルタージュ。

 平良愛香『あなたが気がつかないだけで神さまもゲイもいつもあなたのそばにいる』(Gacken)農村伝道神学校で私の受講生だった平良愛香牧師の手記。平良牧師は神学校在学中にゲイであることを公にした上で教団の教師になった。セクシャル・マイノリティーの当人が周囲の偏見と無理解の中でどれほど苦しんで来たか、平良君の少年時代から今までの歩みを赤裸々に吐露されている。その葛藤の詳細を読んで、私自身の中に偏見や誤解があったことを思い知らされた。特にキリスト教界の無知と偏見を正すためにも必読書ではある。(戒能信生)

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