2018年3月29日木曜日


牧師の日記から(155)「最近読んだ本の紹介」

清水透『ラテンアメリカ500年』(岩波現代文庫)16世紀の大航海時代、つまりコロンブスの新大陸発見!から現代までのラテンアメリカ500年に及ぶ歴史をたどる意欲的な論考。著者の視点は定点観測的にメキシコのインディオたちに向けられるが、さらにラテンアメリカから南米各地の植民地の歴史を概観してくれる。はっきり言って知らないことばかりだった。虐殺されたインディオたちと侵略者の手先になったインディオ・アミーゴたち、そしてポルトガルやスペインからの入植者の圧倒的多数が男性だったため混血児(メスティーソ)が増加して人種的混交が進行していく。それは北アメリカの植民とは決定的に異なる独特の南米社会を形成する。そこにカトリックの各修道会の宣教が重なる。それはヨーロッパ・キリスト教史とは全く異なった様相を帯びる。さらに各国のポルトガル、スペインからの独立の事情もアジア諸国とはまた違っている。特に戦後の南米各国の共産化を防ぐためと称してアメリカ合衆国が直接間接に武力介入した経緯を改めて知らされた。日本では、戦後の占領政策によって民主化を推進した合衆国のイメージが強いが、南米の政治史から見えてくる合衆国は、問答無用の反共的支配者、圧倒的な資本による収奪者の様相が色濃いと言わざるを得ない。そのラテンアメリカからは、日本という国はアメリカ合衆国の「ジュニア・パートナー!」と見られているという事実を忘れてはならないとつくづく思わされた。

ハルノ宵子『それでも猫は出かけていく』(幻冬舎文庫)吉本隆明の長女(小説家の吉本ばななの姉)が漫画家であることは知っていたが、羊子に勧められてその作品を初めて読んだ。自宅で両親の介護をしながら、数匹の家猫(誰も引き受け手がない病気や障害を負った猫)を引き取り、さらに近所の野良猫まで外猫として餌をやり、避妊手術をするなどの世話をする日常を、エッセーとイラストで描いている。目の前にある小動物の命に徹底して寄り添う姿勢に感銘を受けた。

吉本隆明『フランシス子へ』(講談社文庫)吉本隆明に最も懐いていた愛猫(フランシス子という名前の猫)についてのエッセー。吉本が亡くなる少し前に愛猫が死に、その追悼というか、想い出をエッセー風に書いている。おそらく吉本の最後の著作になるのだろう。戦後最大の思想家とされる吉本隆明の最晩年の日常生活を興味深く読んだ。

竹中千春『ガンディー 平和を紡ぐ人』(岩波新書)マハートマ・ガンディーの生涯をコンパクトに紹介してくれる。最近の研究も踏まえて、ガンディーその人の生き方、「非暴力抵抗運動」という思想がどのように紡ぎ出されたかを学ばされた。ところで、この本では扱われていないが、1938年のマドラス会議に出席した賀川豊彦がガンディーを訪ねている。その時の記録がインド側に残っており、その一部をR・シェルジェンがその著書に紹介している。ガンディーは、自分ならば戦争に反対して銃で撃たれる道を選ぶと賀川に助言したという。しかし賀川はその道を選ばなかった。そこに戦時下の賀川の悲劇があった。(戒能信生)

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