2018年3月24日土曜日


牧師の日記から(153)「最近読んだ本の紹介」

羽田正『東インド会社とアジアの海』(講談社学術文庫)「興亡の世界史」シリーズの一冊で、ヴァスコ・ダ・ガマによる「印度発見」に始まり、ポルトガルの覇権、さらにそれに代わるイギリス、オランダ、フランスの東インド会社の歴史をその発端から終焉まで扱っている。ヨーロッパのアジア進出の全貌を見せつけられる想いだった。それは一言で言えば、植民地支配と収奪の歴史そのもの。しかしアジアに進出したヨーロッパ諸国のそれぞれの政策の差異や特質が分析されており、室町末期のイエズス会の日本宣教の実際、さらに江戸期のオランダとの交易の実情について新しい知見を与えられた。ところで「東インド会社」と称した訳は、バハマを初めとする中米を「西インド諸島」と名付けたのと区別したという事情を初めて知った。ヨーロッパ諸国にとって東と西の海の果てに、太平洋を挟んでインドが存在したということだったのだ。

佐藤優『亡命者の古書店』(新潮文庫)著者がまだ外務省に勤めていた頃、ある出版記念会で会っている。一緒に勉強会をしようと言い交わしたまま、その後、外務省のラスプーチンは逮捕されて沙汰止みになってしまった。評論家になって以降たくさんの本を執筆しているが、そのすべてに目を通してはいない。同志社神学部出身で、キリスト教関係の著作もあり、その神学理解はともかく、これだけ一般読者に読ませる筆力には感心せざるを得ない。この本は、外交官としてイギリスで語学研修をしていた時期の著者の回想で、ロンドンでチェコ関係の古書店を営んでいるある亡命者との出会いを紹介していて興味深かった。

松井桃塿『ゼノ死ぬひまない アリの町の神父人生遍歴』(春秋社)戦後間もない時期、ゼノ神父の活動拠点だった「蟻の町」は、浅草の貧しい廃品回収業の共同体だった。その後、都の斡旋で、東京湾の埋め立て地江東区潮見に移転し、現在の潮見カトリック教会になっている。私は深川教会時代、この潮見カトリック教会のルイ・コンスタン神父、さらに蟻の町の人々と親しくしていたので、ゼノ神父についての不思議な伝説をいくつも聞いていた。ポーランドの田舎で小学校もろくに出ていないゼノ少年が、コルベ神父と出会って修道者になり、来日して長崎で被爆。戦後、不思議な「ゼノ語」を操りながら、様々な社会事業を展開していった歩みを改めて辿ることが出来た。

井上寿一『戦争調査会 幻の政府文書を読み解く』(講談社現代新書)昭和2010月、東久邇宮内閣を引き継いだ幣原喜重郎は、戦争責任を調査する「戦争調査会」を設置した。かなり大がかりな国家プロジェクトとして発足したが、連合国による東京裁判の陰に隠れて実際には日の目を見なかった。しかし日本人自身の手によって、戦争の原因、敗戦の理由を検証しようとしたこと自体は注目すべきだろう。残された貴重な証言録はすべて国会図書館に収蔵されているとのこと。戦時下の政府や軍関係の指導者たちの証言は、たとえその当時のバイアスがかかっているとしても貴重な証言と言える。(戒能信生)

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