2017年11月11日土曜日

牧師の日記から(135)「最近読んだ本の紹介」
本村凌二『地中海世界とローマ帝国』(講談社学術文庫)「興亡の世界史」シリーズの一冊で、古代ローマ帝国の歴史をコンパクトにまとめている。一般的な啓蒙書ではあるが、聖書学やキリスト教史の観点からは見えてこない周辺社会の政治や経済についての最近の研究状況を瞥見させてくれる。特に最後の部分でローマ帝国滅亡の原因についての様々な学説が紹介されていて興味深かった。21世紀の現在、第二次世界大戦後支配的とされてきた諸価値が相対化され、アメリカ中心の政治や経済が凋落し、次のステージがどのように展開されるのか見えない混迷の時代において、800年も続いたローマ帝国の衰亡の歴史から学ぶところは多いだろう。政治学者・丸山真男の「ローマ帝国の歴史には人類の経験のすべてが詰まっている」という言葉を想い出しながら読まされた。
長谷部泰男・石田勇治『ナチスの手口と緊急事態条項』(集英社新書)改憲論をめぐって、麻生副総理の「ナチスの手口を学んだらどうかね」という発言を逆手にとって、自民党憲法草案の「緊急事態法」がいかに「ナチスの手口」と似ているかを究明している。憲法論とドイツ近現代史の専門家による対談集。
半藤一利『歴史に何を学ぶのか』(ちくまプリマー新書)『日本の一番長い日』の著者が、自分自身の編集者としての歩みと歴史に学んできた本音を吐露している。これは司馬遼太郎も指摘していたことだが、日清・日露戦争の公式戦記は改竄され、軍にとって都合の悪い部分はすべて書き換えられていたそうだ。戦争の悲惨な実態が正確に後世に伝えられなかったというのだ。中でも興味深いのは、著者が唱える「40年史観」。40年が経過すると凄惨な戦争の記憶が薄れるという。陸軍でも海軍でも、日露戦争の実戦経験者の多くは日米開戦に消極的だったが、主戦論者たちは日清・日露戦争後の陸海軍の膨張期に立身した軍人たちだったという。第二次世界大戦後、既に70年が経過する現在、戦争の悲惨さを知る経験者に取って代わって、戦争の実態を知らない人々が政治をリードしている。旧約聖書の伝える「荒野の40年」との対比を考えさせられた。

河合雅司『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書)少子高齢化が進むこの国の将来に何が起こるかを具体的に想定して、その対処法を提示するという触れ込み。その処方箋有効性には疑問の点も多いが、数値で予測される危機の実態が興味深い。例えば2039年に火葬場が不足すると予測されているが、既に地域によっては現実化している。牧師としての経験からも、多摩地区では明らかに火葬場が不足していて、亡くなってから一週間後以降にしか葬儀ができなくなっている。また2018年には大学の倒産が予測されている。既にいくつかのキリスト教主義学校で学生の定員割れで経営危機が迫っていると聞いている。以前紹介した村上由美子の『武器としての人口減社会』では、人口減少をバネにして働き方を改革し、日本社会を活性化すればいいと論じられていたが、そんな楽観的な予測が甘いということを教えてくれる。(戒能信生)

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