2017年2月25日土曜日

牧師の日記から(98)「最近読んだ本の紹介」
 水島次郎『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)世界を席巻しているポピュリズム(大衆迎合主義)の歴史的な系譜を分かりやすく解説してくれる。特にラテンアメリカにおけるペロン革命の意味や、近年のオランダやデンマークなどEU諸国におけるポピュリズム政党の消長を初めて学ぶことができた。安倍政権が支持されている雰囲気は、いま世界に共通するようだ。その先に何があるのか、改めて政治の課題を考えさせられた。
 キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(創元社SF文庫)現代アメリカの女流作家のSF・ファンタジー短編集。ル・グィン以来、SFの世界では、男と女のジェンダーを越えるイメージの作品が特に女性作家によって次々に書かれている。表題作も世界を二分する断絶の霧を架橋するファンタジーの世界を描いている。
 佐藤彰一『贖罪のヨーロッパ 中世修道院の祈りと書物』(中公新書)5世紀から12世紀にかけての修道院の歴史を辿る学術書。贖罪信仰がどのような過程で倫理化され、それが修道院運動へと展開されたのかを追っている。さらに修道院の社会史とも言うべき、その経済活動や写本制作など活動を紹介している。
保坂展人『相模原事件とヘイトクライム』(岩波ブックレット)昨年7月相模原の津久井やまゆり園で起こった惨劇(19人の障害者が虐殺され、施設職員も含めて27人が重軽傷を負った事件)について、その意味を追ったブックレット。戦時下におけるナチス・ドイツの障害者殺戮(「T4作戦」と呼ばれる)の思想がその根底にあり、それは行き詰まった感のある現代社会を厳然として覆っている。
デイヴィッド・フィンケル『兵士は戦場で何を見たのか』(亜紀書房)イラク戦争に従軍したアメリカ陸軍歩兵大隊に同行し、若い兵士たちが傷つき、殺されていく姿を生々しく記録したドキュメント。どんな戦争映画よりも、現代の戦争がいかに残酷で無惨なものであるかを描き出している。新聞やテレビで伝えられるイラク戦争とは全く違う戦闘の実態に打ちのめされる想いで読まされた。同じ著者が、続編『帰還兵はなぜ自殺するのか』を書いているという。
伊東祐吏『丸山眞男の敗北』(講談社選書メチエ)若き政治学者(1974年生れ)が丸山眞男の神話に果敢に挑戦しているが、どうもその批判が当たっているのかどうかよく読み取れない。しかし丸山の生涯を丹念に追って、その時々の研究や著作と照らし合わせているので、改めて丸山眞男を理解するのに参考になる。

本井康博編『回想の加藤勝弥 クリスチャン民権家の肖像』(キリスト新聞社)1981年に刊行された「地方の宣教叢書」の一冊。教会の書棚に見つけて目を通した。もう山形県に近い新潟県北部の辺境に生まれた加藤勝弥は、自由民権運動に参加し、衆議院議員にもなるが、何より篤実なクリスチャンとして知られる。その一族から、牧師や教師など多数の有為なクリスチャン群像が輩出されているという。実は千代田教会の創立者白井慶吉牧師もまたその一族に連なる一人なのだ。改めて地域に密着したキリスト教史の視点に学ばされた。(戒能信生)

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