2016年10月15日土曜日

牧師の日記から(79)「最近読んだ本の紹介」
 村上由美子『武器としての人口減社会』(光文社新書)国際金融機関でキャリアを積み、現在OECD東京センター長である著者が、国際比較統計を縦横に用いて、人口減の日本社会の未来の可能性を予測している。例えば、人口減を圧力として日本人の働き方を変えればいいと主張する。あるいは女性が働いて能力を発揮できる社会にするべきだという。その多くの指摘に頷きながら、しかし一層激しくなるこのような激しい競争社会に適合できない人々は切り捨てられるという懸念をもたざるを得なかった。ある意味で現在の安倍政権が進めようとしている経済政策の統計的な根拠を提出しているとも言える。
エマニュエル・トッド『問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論』(文春新書)フランスの歴史人口学者である著者は、その綿密な分析と大胆な未来予測で最近話題になっている。トッドの研究者としての軌跡も自身の口で解説されて興味深く読んだ。例えば、ドイツ主導のEUの将来の危機を予測し、イギリスのEU離脱は必然だという。アメリカ大統領選挙のトランプ現象に象徴されるポピュリズム的傾向とそれ故の混迷を、人口の増減と家族構成、さらに宗教的なデータ分析から大胆に読み解くのだが、その結論は上記の村上由美子さんの処方箋と似て来るように見える。アメリカの軍事的・経済的な地盤沈下が世界に動揺を与え混乱期が始まる時代に、このような未来予測が流行るようだ。
橋爪大三郎・大澤真幸他『社会学講義』(ちくま新書)かなり以前『別冊宝島』で「分かりやすいあなたのための社会学入門」が出て結構役に立った。それを新たに編集し直し、その後の研究を増補して新書にしたもの。橋爪さんの社会学概論、大澤さんの理論社会学、さらに野田潤という若い研究者による家族社会学が、近年の研究動向やその問題について分かりやすく解説してくれる。私の勉強の領域は、広く言えば宗教社会学になるので、隣接するこれらの研究分野が参考になる。特にミシェル・フーコーの『監獄の誕生』についての大澤さんの解説が秀逸。一望監視装置によって主体性が確立されたという仮説は、絶対者なる神に見られていることによって、「知られたる我」という主体性が生まれることを示唆する。
矢部宏治『日本はなぜ、基地と原発を止められないのか』(集英社インターナショナル)沖縄の基地、そして各地の原子力発電所の撤去は、国民の大多数が支持しているのに実現されない。その背景にアメリカの軍事的なプレゼンスが厳然と存在することを説得的に説明してくれる。例えば、日本の上空の制空権は未だに米軍によって管理されているという。そう言えば、関西方面から羽田に着陸する旅客機がわざわざ房総方面から迂回して侵入する理由が初めて分かった。

神田千里『戦国と宗教』(岩波新書)武田信玄、上杉謙信、織田信長など戦国時代の武将たちの宗教観を総ざらえで解説してくれる。加えてキリシタン大名たちの信仰の実態に、従来の通説とは異なった角度から迫っている。ただ「天道」という思想がその背景にあったという仮説はあまり納得できなかった。(戒能信生)

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