2016年4月9日土曜日

牧師の日記から(53「最近読んだ本から」
大塚柳太郎『ヒトはこうして増えてきた 20万年の人口変遷史』(新潮社)私はかねてから速水融さんたちの「歴史人口学」に教えられてきましたが、この本はさらに視野を広げて、20万年の世界の人口の変遷を、しかも最新の研究成果を踏まえて紹介しています。人口減少時代に突入した現在のこの国の将来を考えるために、これは必須の視点と言えます。それはまた移動型遊牧生活から定住型農耕生活へと移行した旧約聖書の世界を、新しい視点で読み直すことにもつながります。
鶴見俊輔『「思想の科学」私史』(SURE)戦後、『思想の科学』を中心に、転向論を初め鶴見さんはたくさんの仕事をしています。この小さな本は、その「思想の科学」の周辺のエピソードを編集したもので、京都の小さな出版社から刊行され、市販はされていません。戦後思想の源流の一つである「思想の科学」が、鶴見俊輔という類稀な個性と、決して異論を排除しないその強靭でしなやかな姿勢から生まれたということが読み取れます。
石田明人『キリスト教と戦争 「愛と平和」を説きつつ闘う論理』(中公新書)『戦場の宗教、軍人の信仰』(八千代出版)を読んでこの若い研究者に注目していましたが、本書は旧約聖書に始まり新約聖書、そしてキリスト教史、さらに日本キリスト教史を視野に入れつつ、戦争がどのように捉えられて来たかを紹介しています。改めて戦争と信仰について考えさせられます。
鹿子裕文『へろへろ』(ナナロク社)福岡の老人介護施設「宅老所よりあい」の誕生から現在までを、編集者の視点から面白おかしく紹介したもので、抱腹絶倒の読み物になっています。しかしそこには高齢化社会の問題が鋭くえぐり出されていて、考えさせられます。かつて東京清風園という特別養護老人施設で、月に一度聖書の話しを担当していました。礼拝説教や保育園の子どもたちへのお話しより難しく、分かりやすく話す絶好の訓練になりました。
井上章一『京都ぎらい』(朝日新書)著者は京都出身で、京大卒、京大教授の建築史の研究者で、独特の視点からの関西文化についての論者です。ところが、実は京都府下の嵯峨野出身で、洛中の人たちからは差別されてきた恨みつらみがユーモアを交えて語られます。この本の最後のところで、「ヤスクニ問題」や「日の丸」「君が代」の問題について、「あんなものは東京が首都になってからうかびあがった、新出来の象徴でしかありえない」と突き放しているところが、いかにも井上さんらしくて面白かった。

森健『小倉昌男 祈りと経営』(小学館)運輸省と壮烈な論争を経て「ヤマトの宅急便」を開発した異色の経営者小倉昌男さんが熱心なクリスチャンだったことは知られています。また晩年福祉に力を尽くしたことも有名です。本書はその家族の秘密と問題について迫ったドキュメントです。(戒能信生)

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