2016年4月15日金曜日

牧師の日記から(54「最近読んだ本から」
カーラ・パワー(秋山淑子訳)『コーランには本当に何が書かれていたか?』(文芸春秋)父がクェーカ-、母はユダヤ系アメリカ人の娘として、自らは無宗教を標榜する中東専門の女性ジャーナリストが、インド出身のイスラム教徒で、オックスフォードの著名なイスラム学者であるシェイク・アクラムを通してコーランの神髄を学ぶという内容。なんとも奇妙な取り合わせだが、私がこれまで読んだイスラム関係の書物の中で、最もよく預言者ムハンマドの信仰と思想に触れることが出来たように思う。7世紀の時代に生きたムハンマドの実際の言動から始まり、イスラム原理主義やジハードの問題、さらにムスリム女性のベールから複数妻、幼児婚の問題に至るまで、現在のあらゆるイスラム問題について果敢に質問し、保守的な原理主義者である師アクラムからきわめて柔軟な答えを引き出している。井筒俊彦訳の『コーラン』からは読み取れなかった実際のムスリム思想に接することが出来た。
中島岳志・島薗進『愛国と信仰の構造』(集英社新書)リベラル保守を標榜する気鋭の政治学者と、宗教学の大御所とが、宗教とナショナリズムについて対談した本。明治維新から現在までの150年の歴史を、戦前と戦後に分けて整理し、この国の宗教をめぐる過去と現在の課題が総ざらえで取り上げられている。さらに現在の安部政権の問題やそれを支持する風潮にまで議論が及び、戦後一貫して対米依存を続けて来たこの国に、アメリカがアジアから撤退した後、再び形を変えた全体主義が復活するのではないかという予測まで披瀝されている。前半部で取り上げられている浄土真宗の同胞会運動がナショナリズムに絡めとられていった経緯など、学ぶところが多かった。
エマニュエル・トッド『シャリルとは誰か?人種差別と没落する西欧』(文春新書)フランスの歴史人口学者で文化人類学者でもある著者が、フランスを覆うイスラム恐怖症を分析した書物。その背景にカトリック教会の地盤沈下があるという指摘に驚いた。無宗教的な意識がナショナリズムに捉われるという逆説は、現在の日本社会にも共通する点があると考えさせられた。
飯島周『カレル・チャペック 小さな国の大きな作家』(平凡社新書)チェコの作家で、SF小説で知られるチャペックの評伝。「ロボット」の命名者であり、『山椒魚戦争』の著者としてしか知らなかったチャペックが、ジャーナリストであり、ファシズムへの抵抗者であり、同時に詩人、園芸家という多様な面をもつ偉大な知識人であったことを初めて知ることが出来た。

近藤綾乃『ニューヨークで考え中』(亜紀書房)、『A子さんの恋人』(KADOKAWA)羊子に紹介されたマンガです。文化庁の新進芸術家海外研修生としてアメリカ留学をした作者の経験をエッセー・マンガとして綴った作品。マンガもここまで洗練されて来たのかと感心した。(戒能信生)

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