2016年1月15日金曜日

牧師の日記から(41「(続)最近読んだ本から
對馬達雄『ヒトラーに抵抗した人々―反ナチ抵抗市民の勇気とは何か』(中公新書)第三帝国下のドイツで、民衆に圧倒的に支持されていた総統ヒトラーとナチス政権に対して命をかけて抵抗し、またユダヤ人たちの救援のために活動した市民たちの姿が紹介されています。その中には、ボンヘッファーを初めとする告白教会関係者も含まれますが、普通の市民たちの活動もあったことに改めて感銘を受けました。戦時下の日本において、同様の抵抗運動がほとんど見られなかったのは何故かという重い課題を突き付けられます。
小森陽一・成田龍一・本田由紀『岩波新書で「戦後」をよむ』(岩波新書)戦後70年の歩みを、10年ごとに三冊ずつの岩波新書を通して振り返るという企画本で、専門も世代も異なる三人の研究者たちが、それぞれの問題意識や関心から鼎談しています。読んでいない新書がいくつも取り上げられており、こういう仕方での戦後史の読み解きもあることを教えられました。特に直近の10年では、湯浅誠『反貧困』、師岡康子『ヘイト・スピーチとは何か』、内橋克人『大震災の中で』の三冊が取り上げられており、現在の時代の課題がもろに提示されていることに改めて考えさせられました。
柄谷行人『世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて』(岩波新書)著者は、文芸批評、哲学、建築評論など多彩な貌をもつ思想家ですが、特に近年、『世界史の構造』を初め国家をどのように乗り越えるかという壮大で難解な議論を展開しています。この新書はその柄谷理論を比較的分かりやすく紹介しています。ソ連の崩壊後、思想界ではマルクシズムについて論究されることが少なくなり、大きな視点から世界を読み解こうとする思想家がいなくなりました。そんな中で、マルクスを批判しつつ、その問題意識をさらに展開しようと孤軍奮闘しているのは柄谷さんだけのようです。
橋爪大三郎・佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書)橋爪さんは社会学者でルーテル教会の信徒、佐藤さんは同志社の神学部を出て外交官になり、「外務省のラスプーチン」と呼ばれた異色の作家です。宗教を理解しないでは世界の外交も政治も分らないという観点からの対談集です。それにしては議論が反射神経的に交わされていて、厳密さに欠ける印象があります。キリスト教側の応答者として佐藤さんしかいないというところに、現在のキリスト教界の問題がありそうです。

常盤新平他『作家の珈琲』(コロナ・ブックス)常盤陽子さんから頂いた本です。25人の作家や芸術家たちのコーヒーについての随筆を集めたもので、作家たちが通った喫茶店の懐かしい写真も掲載されています。私も若い時からの習慣で、今でも週に何度か喫茶店に行って本を読みながらコーヒーを飲みます。曙橋駅の近くにある小さな喫茶店がお気に入りです。(戒能信生)

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