2016年1月2日土曜日

牧師の日記から(39「最近読んだ本から
年末の1226日、千代田教会を会場に柏木義円研究会が行われました。親しい研究者たちが何人も参加してくれたので、書庫兼書斎に案内したところ、みんなから散々羨ましがられました。友人たちは、そろそろ大学を停年で退職しなければならない年齢で、みんな研究室の書籍の置き場所に困っているからです。そんなこともあって、最近読んだ本から、新書や文庫を中心に何冊か紹介しましょう。
小熊英二『生きて帰って来た男 ある日本兵の戦争と戦後』(岩波新書)月刊誌『世界』に連載していた時から毎回愛読していました。著者の父親の戦争体験・シベリア抑留と帰国後の生活者としての歩みを詳細に聞き書きしたものです。その特徴の一つは、戦争体験と戦後の歩みが接続されていることです。この二つはしばしば切り離して捉えられがちですが、その両者が繋ぎ合さられた時、そこに何が見えてくるかが本書の読みどころです。この本は小林秀雄賞を受賞しています。
高橋源一郎×SEALDs『民主主義ってなんだ』(河出書房新社)この夏、安保法制に反対する国会前での運動を担ったSEALDsの若者たちの想いを作家の高橋源一郎が聞き出しています。従来の政党や労働組合などの動員主義ではなく、現在の若者たちの関心や問題意識が率直に披瀝されています。SEALDsの中心にいる奥田愛基君は、旧知のバプテスト連盟の藤田英彦牧師の孫で、福岡でホームレス支援を続けている奥田知志牧師の息子であることもあって、とても興味深く読みました。
吉村昭『昭和の戦争Ⅲ秘められた史実へ』(新潮社)羊子からのクリスマスプレゼントです。私は吉村昭の史伝ものが好きでほとんど目を通していますが、これには読み逃している作品が何篇か含まれています。以前、岩波新書の『シリーズ日本近現代史』で、気鋭の若い研究者たちが、何人も吉村昭のドキュメンテーションを参考文献に挙げていました。吉村さんの史伝ものは歴史研究者が取り上げるほど信頼されているのです。
アーシュラ・K・ル・グィン『世界の誕生日』(ハヤカワ文庫)著者は『ゲド戦記』などのファンタジー作品で有名ですが、もともとはSF作家です。本書には1990年代に書かれたSF作品が収録されていますが、いずれもジェンダーが隠れたテーマになっています。つまり両性具有等の異世界を描くことを通して、私たちのジェンダー理解の常識を問うているのです。

磯田道史『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)著者は日本近世史研究者で、朝日新聞の日曜版に連載したものが元になっています。各地に残る中世・近世の文書資料から、地震や津波などの災害の記録を読み解き、現代の防災のために役立てようという意欲作です。(この項続く 戒能信生)

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