2015年9月12日土曜日

牧師の日記から㉓「この夏読んだ本のこと」
この夏読んだ本の中から、神学関係のものを除く一般書のいくつかを紹介してみましょう。牧師はたくさんの書籍をもっているようだが、一体どんな本を読んでいるのかという質問があったからです。
倉橋正直『戦争と日本人 日中戦争下の在留日本人の生活』(共栄書房)。著者は、愛知県立大学の名誉教授で、以前満州開拓基督教村の資料のことで私を訪ねて来て以来の付き合いです。戦前の中国大陸への日本の侵略の実態を、詳細な資料に基づいて研究している歴史学者です。キリスト教に触れた著書を贈呈してくれますが、これもその一冊で、例えばこの本の中で取り上げられている「救世軍の報国茶屋-日中戦争期の軍隊慰問事業」という論文などは、侵略戦争にキリスト教界がどのように関わったかの実例でもあります。大連日本基督教会の中心的な教会員の一人であった柴田博陽についても、倉橋さんは研究されているそうです。
島田裕巳『戦後日本の宗教史』(筑摩書房)。私は日本宗教史も自分のささやかな勉強の領域としていますが、宗教学者である著者は天皇制・祖先崇拝・新宗教を軸として戦後の各宗教の変遷を分析しており、大変参考になります。特に細かなデータや最近の新宗教の動向などについて教えられることがたくさんありました。
鈴木健次『戦争と新聞 メディアはなぜ戦争を煽るのか』(ちくま文庫)。著者は元・毎日新聞の記者で、これは新聞に連載したものをまとめたもので、明治以降の新聞報道で戦争がどのように扱われて来たかを跡付けています。西南戦争や日清・日露戦争がどのように報道されたかについては私も初めて知りました。特に昭和に入ってから、軍に批判的な新聞社に対して在郷軍人会が不買運動をして圧力をかけた実態や、次第にマスコミが無力化されて行った経緯に、現在と通じる不気味なものを感じました。
九井涼子『ダンジョン飯』(KADOKAWA)。これは漫画です。羊子(アニメ会社勤務)が買って来て勧めてくれました。ダンジョンというのは、地下迷宮を指すゲーム用語で、主人公たちがチームを組んで地下迷宮で魔物をやっつける旅の中で、お腹が減って魔物を料理して食べるという荒唐無稽なものです。しかし奇妙な魅力があり、最近のマンガの中では出色の作品です。

F.v.シーラッハ『犯罪』(創元社推理文庫)。著者はナチスの青年指導者だったB.v.シーラッハの孫にあたるそうです。殺人事件を担当する弁護士の視点から現代のドイツ社会の断面を描いた不思議な味わいの小説です。最近、北欧やヨーロッパの優れたミステリーが翻訳されるようになり、それぞれの社会の裏面を知ることが出来るので私はよく読みます。(戒能信生)

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