2015年5月31日日曜日

牧師の日記から⑧ 2015年5月31日

牧師の日記から⑧
日本キリスト教史についての勉強の一環で、戦時下の説教を調べています。戦時中、敵性宗教であったキリスト教に対して、様々な迫害や嫌がらせがあったことはよく知られています。しかしそんな中でも、各地の教会では毎週日曜日には例え少数でも教会員が集まり、讃美歌を歌い、礼拝が行われていました。問題は、そこでどのような説教が語られていたかです。この国では高名な牧師や神学者の説教集が驚くほどたくさん出版されています。しかしその中に、戦時下の説教はほとんど見当たりません。日本聖書神学校の図書館に収蔵されている説教集を網羅的に探してみました。しかし戦時下の説教は見つかりませんでした。あの戦時下において時局に迎合しない立場を貫いたと伝えられている牧師たちの説教集にも、不思議なことに戦時下の説教は収録されていないのです。なにもそういう説教を探し出して、ことさらに非難するためではありません。「新しい戦前」が来ようとしている現在、つまり秘密保護法の制定、武器輸出三原則の撤廃、さらに集団的自衛権の解釈変更や安保法制の制定が国会で審議されるような事態の中で、70年前の戦時下、先輩牧師たちはどのように戦争について語ったのか、その苦悩と葛藤から学びたいと願っているからです。
千代田教会に赴任して、教会の書棚の片隅に初代牧師白井慶吉先生の説教集を見つけました。1983年に、松野俊一先生たちが編集・刊行した『白井慶吉説教及論考集』です。この中には、大連日本基督教会時代の白井先生の説教が何篇か収録されています。大連教会の月報『霊光』から、戦時下の説教がそのまま再録されているからです。この説教集は、自費出版で広く頒布されていません。神学校の図書館にも見当たりませんでした。「あとがき」に、編集者である松野先生は、白井牧師の戦時下の一連の説教について痛みをもって次のようにコメントしています。「私たちは自らの無知と傲慢をみ前に恥じながら、主の憐みによって、この説教集を公にしたいと願う」と。私はこれを読んでその見識と姿勢に感銘を深くしました。教団出版局から執筆を依頼されている『戦時下の教会に学ぶ』という小さな本に、是非紹介したいと考えています。

       (戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿